ソード・ワールドの知名度判定にまつわる問題

ソード・ワールドにはモンスターの知名度を基準に判定を行い、達成値によって PC がそのモンスターに関する情報を得られるルールがある。

このルールについてよく問題になるのは、PC が判定に失敗しても、プレイヤーの知識をなかったことにはできないことだ。PC が判定に失敗または達成値が低いためにモンスターの特性を知ることができなかったとしても、それが有名なモンスターの場合、プレイヤーは PC には不可能な判断に基いて最も有効な戦術を選択してしまう事態が起こり得る。

ソード・ワールドのデザイナー清松みゆき氏は、判定に失敗した場合、「明白に不利な行動まではしなくても良いが、通常の戦術を逸脱して有利な行動を取るべきではない」との見解を示しているようだ*1

しかしこの「通常の戦術」の解釈が曲者で、プレイヤーは PC の想像力や判断力という数値化できない部分を際限なく拡大して正解に至らせることができてしまう。と言うより、正解から逆算して「普通に考えたらそうなる」の理屈を組み立てるのだ。PC はそれまでの経験に基いて判断し、必然的に最善の行動を選択した。その主張を否定するのは不可能だ。

また仮にプレイヤーが己の良心に従って知らないふりをするとしても、いつまで、どこまで、知らないふりをすれば良いかが客観的基準によって明確になることはない。たとえば通常の武器が通じない敵について、何回無駄な攻撃を繰り返した時点でその特性に気付くのかはルール化されておらず、一回の無駄撃ちで気付くか、最後まで気付かないかは極めて属人的な問題となる。

その場合プレイヤーは自分の分身であるはずの PC が敢えて最善の選択を避けるように行動することを強要される。それはプレイヤーにしてみれば「明白に不利な行動」以外の何物でもなく、清松氏の見解は根本的な矛盾を抱えていると言わざるを得ない。またプレイヤーに対して PC への自己投影を阻害するような制約を課すことは心情的に承服しかねる。

そうなると知名度判定そのものがルールとして不適切なのか。それも違う。プレイヤーが知らないモンスターについては、不完全情報は確かに戦闘を盛り上げる要素として有効に機能するのだ。プレイヤーがベテランであればオリジナルモンスターでもない限り、全モンスターのデータを把握していることも珍しくないので何の慰めにもならないわけだが、それでもせっかくのルールを曖昧な運用で有名無実化させてしまうのも癪なので対策をいくつか考えてみた。

対策その一: 事前に PC に伝えてしまう

たとえばゴブリン退治の依頼であれば、退治すべきゴブリンについて予め詳細な情報が与えられても不自然ではない。知名度判定で失敗しても、少くとも事前情報に基いて PC がゴブリンであろうと推測し適切に行動することを正当化できる。判定でごたごたしたくない時はこれが一番手っ取り早いだろう。

対策その二: 判定失敗のペナルティを明確にする

PC の情報収集活動が不完全な場合のペナルティを先に決めておくという手も考えられる。知名度判定の達成値と情報収集不足の度合いによって、一定のターン、特定の行動を明示的に禁止するのだ。「判定に失敗した PC が最適行動を思いつくはずがない」と言われるよりも、「情報収集を怠ったペナルティとして、このターンは思いつかないことにする」と言われた方がまだ受け入れやすいのではないか。逆にモンスターの弱点を一定ターン無効にしてしまうのもありかもしれない。もちろん GM がきちんと宣言した上で。

対策その三: 名前も外見情報も与えない

知名度判定の結果に関わらず、名前も告げないし外見的特徴も教えず、戦闘中はあくまで数字や記号で区別する。判定に成功した PC には戦闘に関係する情報は公開しても、プレイヤーの知識をなるべく正解に直結させないように隠せるところは徹底して隠す。人型か虫系か異形かも伏せる。巻きつき判定でも触手か糸かロープかは言及しない。モンスター A とモンスター B は外見的に似ている、くらいなら構わないかも知れないが、そこは GM の匙加減で。いずれにせよこれでプレイヤーは敵がゴブリンなのかホブゴブリンなのかゴブリンシャーマンなのか、ある程度戦わなければ分からない。そしてある程度戦っていれば相手の特徴を把握しても不自然ではないだろう。

対策その四: プレイヤーは推測を口にしてはならない

最低限の情報であっても、プレイヤーがモンスターの正体に気付く状況は大いにあり得る。それによって最適行動を選択されるのは、プレイヤーの思考活動を制限することが不可能である以上は回避しようがない。そこでプレイヤーの知識と判断はその PC の直感として扱い、他のプレイヤーに伝えることだけを禁止する。もちろん知名度判定で得た情報は問題ない。あるいは通常武器で殴ったらすり抜けた、という情報は PC にとっての事実なので、その情報を仲間に伝えることは構わないし、殴る前に何となく仲間の魔術師にエンチャント・ウェポンを要求することもきっと問題ない。ゴーストが囁いたんじゃ仕方ないもんな。


ソード・ワールド2.0 ルールブック I (富士見ドラゴン・ブック)

ソード・ワールド2.0 ルールブック I (富士見ドラゴン・ブック)

*1:原典確認できず。